毒親を想定しない制度の多さ

1、はじめに

 

t-ritama.hatenablog.com

 この記事は「私が休学を決めるまで」の記事の既読を前提と書かれている。よって、その既読を前提とした文章構成となっているので、初めましての方はまず上記リンクから記事を読んでいただきたい。

 

 この「私が休学を決めるまで」の記事の公開において一番反響が多かったのは毒親の存在を想定していない日本社会の制度について言及する声であった。という私も、「毒親」という言葉の存在をこの反響によって知り、調べてほーなるほどなあと納得した。

 

 

毒親(どくおや、英:toxic parents)とは、児童虐待などで一種の毒のような影響を子供に与える親のこと。母の場合は毒母(どくはは、どくぼ)、毒ママ(どくママ)[1]と称される。また、父の場合は毒父(どくちち、どくふ)、毒パパ(どくパパ)と称される。毒母の別名として、モラ母(モラはは)[2]と称されることもある。(wikipediaより)

 

 

今回この記事を書くきっかけとなったのは北海道の男児放置事件の男児が見つかったことである。いきすぎたしつけなのか、育児放棄なのか様々な情報が飛び交っているが、ここではそれに関連して毒親が子供にどのように影響を与えるのかを知っていただきたい。

「しつけ」で7歳男児置き去り=山林へ両親、不明に-当初「はぐれた」と通報・北海道警:時事ドットコム http://www.jiji.com/jc/article?k=2016052900158&g=soc

 

 私の場合、確かに親から大学進学に関して妨害を受けたが、実際のところ一番困難に直面する原因になったのは「親が子供に何もしないこと」による影響である。

 

2、親が子供に何もしないこととは?

 上記の「親が子供に何もしないこと」というのはピンと来ない人も多いかもしれない。これは文字通り、親が子供に何もしないことである。ひょっとしたら、「子供に義務教育を受けさせたり、高校を卒業させたらもう親は何もしなくても良い、甘えるな」と考える人もいるかもしれない。しかし、現在の日本社会は親が子供に協力的であり、その協力を前提としている。そこに、その前提を覆す想定外の親を持つとき、その子供が不利益を被ること、特に命の危機に関わる状況となることがありうるのでここに書き記したいと思う。



3、露呈する制度の欠陥

 まず、「親が子供に何もしないこと」により以下の二つが出来なくなる。

 

・親の所得証明ができない。

・保証人がいない。

 

また、私の通う東北大学においてはこれにより以下のことが出来なくなる。

 

・授業料免除申請

・貸付型奨学金の申請

・住居の借入

 

 授業料免除申請においては親の所得証明が必要である。これは、親が子供を扶養するだけの十分な収入があるかどうかということを判断するために必須である。よってこれが証明されない限りは、授業料免除申請の書類の必須事項を埋めることが出来なくなり、授業料免除の申請を受け取ってもらえなくなる。「親が何もしないこと」により、その所得証明を発行してもらえない。

 また、授業料免除の基準として学生の独立生計があり、その証明により授業料免除がされる大学もある。どうしてこのような基準の違う大学が存在するかというと「学部生は親の収入のみ、大学院生は本人の独立生計も認める」という文科省の方針を参考にして、大学が独自にその基準を定めているからである。東北大学以外の制度を詳しくは知らないが、他の大学に関しては、東京大学では学部の独立生計を認めず、京都大学では学部生の独立生計を認めるという話を聞いている。

ちなみに東北大学ではHPにこのような記述がされている。

経済的理由により、授業料を納付することが困難であると認められ、かつ、学業成績が優秀であると認められる者、その他やむを得ない事情があると認められる者については、願い出により選考の上、授業料の全額、半額又は3分の1の額の免除が許可される制度があります。(東北大学公式HPより)

 私はこれを見て疑いもなくその制度の該当者になれると思いこんでいたが、思わぬところに落とし穴があった。




 奨学金についてもほぼ同様である。奨学金は基本的に日本学生支援機構に頼ることになるが、大学から日本学生支援機構に書類を送るため、その書類の不備があった場合はその申請ができない。これは、大学側の配慮や制度でどうこうなる問題ではなく、この三つの問題のうち、一番解決が困難である。また、奨学金を借りるということは当然、保証人の問題が出てきて保証人がいないとその借り入れができない。機関保障という制度があるが、それには身元保証人という別の保証人も必要である。身元保証人は基本的に両親ということになっており、直接ある機関保障会社に話を聞きに行ったときは「両親以外の身元保証人ではよく申請落ちすることがある」という話をされた。大学以外の機関を2つ介すことになり「親が子供に何もしない」ことにより、その実現は困難を極めることになることが分かった。



 住居の借入の問題は非常に深刻である。住居がないと生活の質が大幅に落ち、人間的な生活が出来なくなる。私はこの2年間で3回ほど「このまま死ぬかもしれない」と思った。ご存知の方が多いと思うが、住居の借入には連帯保証人が必要である。「親が子供に何もしない」とこの項目が達成できない。機関保障制度も上記に書いた通り両親以外では落ちることが多いのに、収入がアルバイトのみの大学生が親族以外を身元保証人とするとなればさらに困難なものとなる。大学の学生寮への入寮の申請も部屋を借りることになるため、当然連帯保証人が必要である。また、入寮の審査は授業料免除と同様に親の所得証明が必要である。「親が子供に何もしない」ことによりこれらも申請が困難となった。

 しかし、学生寮は大学が運営している設備ということもあり、大学の配慮により5月より入寮の許可がおり、私の大学生活において、住居なしの生活は1年生の4月のみであった。



4、授業料免除と貸付型奨学金がないとどうなるの?

 端的にいえばお金がたくさんかかる。具体的にいえば、一年あたり、授業料56万、家賃20万(寮費)に他の費用が多くかかる。保険料や教科書代、食費、生活雑貨費など……。東北大学HPによると、大学生がひと月に使う金額は約10万円とのこと。これは学費を除いた金額である。貧乏な学生はこれより節約して生活するため一概に比較するとはできないが、これを大学に通いながら稼ぐのは非常に困難である。これに関しては「私が休学を決めるまで」に詳細に書いてある。



5、まとめ

 大学の制度が親がないと何もできない状態であるということを知らないまま入学した私が悪いと言われればそれまでであるが、社会や大学がこれほど良心的な親を前提としている、その親がいないと命の危機すらあるということを知らなかった。北海道男児放置の問題で「保護された男児はすぐに親元に戻る」ということを嘆く方が多かった。これも良心的な親を前提としている、また毒親を想定していない社会の制度の在り方を示すものであり、私はその報道を見てとても他人事とは思えなくて自分の経験をこのように文章にした。制度を変えてくれとまでは言わないが、制度の前提を満たすことが出来ず、あぶれてしまっている人間がいるということも知ってほしい。

 

 

文責:T.

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